蛍の一生

ゲンジホタルの一生は，日の当たらない水辺のコケの中で始まります｡コケは清らかな水の友だちです｡コケの湿潤な緑が，ホタルの卵の隠れ家です｡緑陰の息吹を吸って，卵は孵化します｡ゲンジホタルの幼虫は，カワ二ナという巻貝を餌にして育ちます｡「巻貝＝螺旋の命を織って，明滅する光の夢を紡ぐのです」カワニラは美しい水の中に生息しています｡カワニラが生息できる澄み切ったせせらぎの環境で，ホタルの幼虫は脱皮（平均5回，約10ヵ月）を繰り返して大きくなります｡春に水温が上昇し4月～5月にかけて雨が降り続く日が続くと，闇の光の中を川岸へと移動し上陸の準備を始めます｡渓流のせせらぎの水から，大地の懐へと勇気を持って進むのです｡ホタルは雨乞いをする昆虫です｡なるべく雨の降る日,でなければ雨が降った後の日を選んで上陸します｡適度な湿り気と通気性のよい柔らかい土壌の浅瀬（約1～6センチ」に,土繭（まゆ）と呼ばれる小部屋を作りその中で過ごします｡約40日経つと蛹化し,昼夜を分かたず神秘的に光輝いています｡ホタルは大好きな夜の光を集め,分泌液で拵（こしら）えた卵殻のような土の衣装をまといます｡それが土繭です｡蛹になることは,再び卵の状態で過ごすことです｡ホタルの蛹は土繭の中で,やや丸くなって卵形の夢を紡ぐのです｡蛹になって10日ほどすると羽化が始まり,雨に湿った柔らかな土から這い出し地上へ飛び立ちます｡成虫となって地上の夕闇の光の中に身を躍らせると,死は,もう近いのです｡明滅する光の希望をコケの上に産卵し,卵形の夢を遺してあまりにも短い（約10日間）成虫の生を終えるのです｡ゲンジホタルが発するのは（冷光）と呼ばれる光です｡熱エネルギーのほとんどない光です｡地球を暖める太陽のような光ではありません｡ホタルは夜行性ですから昼間はじっとしています

 

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