源氏物語（桐壺） 紫 式部

千年の時を経て,気品と風雅を伝える京文化。

ちょうど今年は,山紫水明の都で育まれた｢源氏物語｣が世に出て千年という節目です。

この季節に愉楽あり。閑寂の中にもあふれる詩情，人々の心に受け継がれた古都の雅。

｢心身と寒さがたのし歩み行く｣星野立子

 

いづれの御時にか。

女御（にょうご）あまたさぶらひ給（たま）ひけなるなかに，いと，やむごとなき際（きわ）にはあらぬが，すぐれて時めき給ふありけり。

はじめより｢われは｣と,思いあがり給へる御（おん）かたがた，めざましき者におとしめそねみたまふ。

おなじ程，それより下﨟（げろう）の更衣（こうい）たちは，まして，安（やす）からず。

 

いつの御世であったか,多くの女御,更衣がお仕えする中に,身分はたいしたことなくて目立って寵愛を受けた方がいた。

入内（じゅだい)当初から自分こそは寵愛をと思い決めていた女御方はその方を蔑（さげす）んだり貶（おとし）めたりし,同格や身分の低い更衣たちはいっそう心穏やかでない。

 

この冒頭はは白居易の｢長恨歌｣にﾋﾝﾄを得ていると言われているが,桐壺帝の寵愛を受けた更衣（光源氏の実母）のはかなげな様子がよく描かれていて印象的だ。

幼い時期に母を亡くした光源氏は,亡き母に生き写しの藤壺（義母）を恋慕うようになる。

この道ならぬ恋の行方がこの長編の縦糸になっている。

光源氏は藤壺に生き写しの少女を理想の妻｢紫上｣（むらさきのうえ）に仕立て上げる。

生き写しの｢二乗｣だ。

空蝉･夕顔･明石上（あかしのうえ)女三宮（おんなさんのみや）たちとの恋が横糸になっている。

｢源氏物語｣は世界最古の長編小説であるだけでなく,真の｢世界文学｣である。登場人物が質量共に充実していて,一つの壮大な人間世界を構築している。

細部の描写も巧みで細かな分析をしたくなる。

欲望の三角関係も多彩だ。とくに六条御息所（ろくじょうのみやすんどころ）の怨霊は迫力がある。

光源氏は女性の理想が凝縮された究極の優男（やさおとこ)だ。

血筋がよく万能な上に姿形が光り輝くように美しく,良い香りまでする。

男さえも引き付ける魅力が光源氏にはある。

両性具有的な身体である。

 

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